【取材】新世代ネットワークの実現に向けて|村田 正幸氏(大阪大学大学院)

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新世代ネットワーク推進フォーラム 庶務

現状のインターネットの課題、新世代ネットワーク(NWGN)への期待、本フォーラムの活性化方策などにつき、研究開発戦略WG主査の村田正幸先生(大阪大学大学院 情報科学研究科 教授)にお話を伺いましたので、その結果を掲載いたします。(文中、敬称略)

-現在のネットワークに関して、どのような問題点や課題を感じていらっしゃいますか?

村田 情報通信研究機構(以下、NICT)の新世代ネットワーク戦略プロジェクトのページ(http://nwgn.nict.go.jp/publication.html)の報告書・パンフレット等をご覧いただくと、現在のネットワークの課題を、具体的かつ詳細に把握いただけるかと思います。
 NICTではこれまでに、「新世代ネットワークビジョン」や「新世代ネットワーク技術戦略」等をとりまとめ、この中で5つのネットワークターゲットを提示しています。具体的には、(1)価値を創造するネットワーク、(2)トラスタブルネットワーク、(3)生活環境を支えるネットワーク、(4)ユーザが制約を意識しないネットワーク、(5)地球に優しいネットワーク、です。あわせて、5つのネットワークターゲットに共通する新たな基盤「ネットワークファンダメンタルズ」の実現も目指しています。これらのターゲットは、既存のインターネットで解決できない様々な技術的課題や、顕在化する多様な社会問題等を踏まえて設定されたものです。


-既存のネットワークの課題克服に関して、国内外の研究開発動向はいかがでしょうか?

村田 ネットワーク仮想化は、最近国内外で注目されているテーマのひとつです。NICTでも仮想化の開発に取り組んでいますし、米国ではGENIの主導で開発が進められています。仮想化に関する目下の課題は、実現したときにその上で何を動かすか、どのようなサービスを実現していくかという案がじゅうぶんでない点です。日本も欧米に遅れをとらない取り組みが必要です。
 有線と無線の統合は、重要な技術課題のひとつであることは間違いありませんが、技術としての実態がまだない状態です。これまで、有線と無線は異なる研究領域として異なる研究者が取り組んできましたので、この2つの領域の研究者同士の接点が少ないという問題もあります。まずは研究者の融合が必要です。
 光パス・パケットについては、日本が強みのある技術です。新世代ネットワークの関連のテーマでは、わが国が資金を比較的投下投入しており、産業界でも研究開発が進んでいます。


-新世代ネットワーク技術の研究を進めていく上での課題はなんでしょうか?

村田 新世代ネットワークの研究を推進するための大きな課題のひとつは「研究者や技術者のマインドを変えること」です。
 最近のIT分野の研究は、既存のインターネットを前提に進められがちです。たとえ全く新しい発想をもっていても、「インターネットで動かすにはどんなプロトコルになるか」と聞かれてしまいます。いまのネットワークで動かせないという時点で、研究対象にならないのです。また、新しい発想をせっかく論文にしても、インターネット上で動かせないために評価されません。民間企業はさらに厳しく、今、役に立たないものは検討対象になりません。こうした背景から、産業界でも学術界でも、狭い範囲から研究テーマを出さざるを得ず、新しい発想を生み出すマインドが疎外されがちです。
 これは、人材育成でも課題になっています。今はインターネットありきでプロトコルがあり、パソコンがあるとネットにつながる世の中ですので、大学の学生たちは「研究するような課題はないのでは」というマインドに陥っています。また、インターネットプロトコルで動くものを考えようとすると、どうしてもすでにあるものの改良版になります。少し改良できれば効果がみえるので論文にはなりますが、ここから新しいものは生まれません。
 学術界も産業界も、既存のインターネットにとらわれず、新しい発想を出していかなければ、新世代ネットワークにつながる発想は生み出されないでしょう。
 インターネットではできないものを発想していくことが、若くて新しい人材を育てますし、新しい研究フィールドを創出することにもつながります。

 また、サービスやアプリケーションなどのためのミドルウエアについては、現段階で検討するのが難しいという課題もあります。今はまだ、新世代ネットワークの効果を具体的に説明できません。仮想化の研究でも課題になっていますが、どのようなサービスやアプリケーションを、どのようなプロトコルで動かすかを検討する必要があります。これは、サービスプロバイダ、技術系のメーカー、学術界等の産学連携、産産連携により見えてくる部分です。


-日本が競争力を有し、イニシアチブを取れる技術についてはいかがでしょうか?

村田 よく日本が強いと言われるのは、携帯電話に関連する技術です。日本と欧米で開発の観点が異なり、日本は携帯の本体の機能を高めようとする傾向が強いのが特徴です。一方で、ネットワーク化によってさまざまなアプリケーションを使えるようにするといった観点は、日本は極端に弱いように思います。その結果が、ガラパゴス化を産み出しているのだと思います。
 日本では光の要素技術に強みがありますので、ここから攻めていく方法も考えられます。光パス・パケットなどを足がかりに、あたらしい通信やサービスを考えてみるのは良いかもしれません。光分野は、こうした検討ができる段階にきていると思います。
 すり合わせ技術については、日本が比較的得意な分野です。ただ、イノベーションの専門家から見ると、こうしたテーマでイノベーションを起こすには、その可能性はあるものの相当の工夫が必要という課題があるようです。
 このような状況で、どのようなイノベーションを産み出していくか、というのも我々の課題だと考えています。


-新世代ネットワーク推進フォーラム(以下、「フォーラム」)は、どのような役割を担うことが期待されますか?

村田 学会や国研や総務省等が単体では取り組めないような課題に対応する際に、フォーラムのような産学官連携組織が必要になります。
 たとえば、学術界や産業界の研究者の出会いの場の創出です。日本は企業や大学が多すぎて、優秀な研究者がばらばらになっています。フォーラムが各地に分散した研究者をネットワーキングする機能を担えると良いと思います。

 なお、このような組織では、検討フェーズが進んで重点テーマが絞込まれると共に、活動メンバーの固定化等の問題が生じやすいので、検討フェーズごとの組織構成のリニューアル、会員やフォーラム外からの意見収集、等の仕組みを大事にすべきだと思います。

 いまのフォーラム全体についていえることは、ビジョンを明確に示していくこと、時間軸を設定することが必要だと考えています。

 また、各WGでの検討成果を踏まえ、フォーラムから国などへ、今後取り組むべき重要課題などを提案するといった動きが重要です。国も、産学官連携の検討成果として「この分野が重要」ということを明確にされれば、戦略的に研究費の投入ができますし、予算化時の説得性も向上します。
 欧州には「テクノロジープラットフォーム」(以下、ETP)があり、今後重要となる技術を産学官で検討・提案する場として、うまく機能しているように見えます。ETPからわが国が学ぶべき点はたくさんあると思います。
 また、国内のフォーラムでは、フォトニックインターネットフォーラム(以下、PIF)が参考になると思います。PIFでは、今後の重要テーマを検討し、国への提案や予算獲得を行った実績を有しています。ただ、時間経過とともに、制度疲労を起こしつつあると思います。


-フォーラムの各ワーキンググループの機能と役割についてはいかがでしょうか?

村田 研究開発戦略WGとアセスメントWGの連携としてあるべき姿は、研究開発戦略WGがシーズについてまず議論を行い、これをもとにアセスメントWGが経済・社会的な観点について議論を行い、この内容をWG間で共有し、各WGでさらに検討するといった流れかと思います。今後、研究開発戦略WGで検討したロードマップについて、アセスメントWGからも意見をいただければと思います。

 テストベッドネットワークWGについては、具体的な研究開発テーマが見えてから本格稼動する組織ですので、それまでは、情報提供とともに、テストベッドのあり方に関する議論が中心になろうかと思います。JGNの次をどのような時間軸で進めていくか、という観点での議論は重要かと思います。

 また、WGを動かしている立場からいうと、各メンバーからどのくらいの貢献を求めるか、という目安もなんらか示せると良いかもしれません。組織によってメンバーのタスクは変わり、たとえばSWGは積極的に貢献してくれる人の参加が必要となります。


-フォーラムの「研究開発戦略ワーキンググループ」の活動の概要をお教えください。

村田 研究開発戦略ワーキンググループ(以下、研究開発戦略WG)のミッションは明確で、新世代ネットワークの研究開発戦略を検討することです。
 平成21年度は、NICTが策定した新世代ネットワークビジョンやロードマップを議論のベースにして、WGでの議論を進めました。具体的には、4つのサブワーキンググループ(以後、SWG)を立ち上げ、ロードマップのブラッシュアップを行いました。また、NICTでは重点的に取り組むべき研究開発テーマ(トップX)を検討していますが、これを4つのSWGで分担して精査していただきました。WG会合では、キャリア大手のNTTにビジョンを発表してもらうなど、メンバー向けの情報提供も行いました。こうした検討の成果は、平成22年3月23日の研究開発戦略WG会合や、平成22年4月2日の新世代ネットワーク推進フォーラムの総会で発表しました。

 研究開発戦略WGのSWGの立ち上げの際は、「個人的」な立場でSWGに参加してもらい、主体的に議論してもらうことを目指しました。「個人的」を強調した理由は、組織の壁を越えて議論をしてもらいたかったためです。メンバー構成は、30~40代の若手を中心としました。各SWGの主査はNICT関係者が務め、検討等の効率化を図りました。実際、SWGではメンバーの皆さんで自由に議論をしていただき、よい成果が出せたと考えています。

 平成21年度のSWGは、議論をして成果を出すことはもちろんですが、組織の壁を越えたヒューマンネットワークを構築してもらい、今後の研究開発につなげてもらうことも狙っていました。その意味でも、当初の目的は達成されたと感じています。


-欧州の「テクノロジープラットフォーム(ETP)」について、もう少し詳しく教えていただけますか。

村田 ETPとそれをとりまく仕組みは以下のようになっています。
 ETPは、欧州の産業界や学術界のメンバーで構成される組織で、今後取り組むべき戦略的な課題を検討し、EC(欧州委員会)に提案します。ECは、提言を踏まえて戦略プロジェクトを立ち上げ、FP7に募集をかけます。FP7は、欧州の産業界や学術界へ研究費を提供します。これにより、欧州産業界は、中長期的な予算を獲得して研究開発を推進します。この仕組みのよさとして、目標やプロセスを産学官で共有できる点、産学で必要性・重要性等が精査されたテーマで国家プロジェクトが立ち上げられる点、などがあげられます。また、この仕組みが動くことで、ETP関係者間の産学連携や、FP7とETPの間の産官連携が推進されていることも重要な点です。

 これはわが国には実質的に存在しない仕組みであり、わが国にも「日本版テクノロジープラットフォーム」が必要であると考えています。日本に置き換えるならば、ECの役割を総務省(官公庁)が、FP7の役割をNICTが、ETPの役割をフォーラムが担うことが想定されます。現状では、産業界・学術界がばらばらに官公庁へ提言を行っているなど、産学が十分に精査した中長期的視点に基づくプロジェクトが立ち上げられているとはいいがたい状況です。また、このフォーラムもETPのようには機能していません。

 わが国でも、もっとフォーラムを活性化してETPのような好循環を創出し、テクノロジープラットフォームへと発展させていくべきだと思います。フォーラム活性化方策のひとつとして、SWGの検討成果を総務省に提案すること等があげられます。そして、フォーラムからの提案を踏まえて、総務省が産業界の求めていそうなテーマを取捨選択して公募を行い、ここに企業や大学がアプライしていく、という流れにつながっていくと良いと思います。また、欧州の事例をふまえると、フォーラムにおけるNICTが果たすべき役割は非常に重要だと思います。

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