【取材】新世代ネットワークの方向性|対談:青山副会長、Taieb Znati氏(NSF)、Chip Elliot氏(GENI)

| コメント

新世代ネットワーク推進フォーラム庶務

2009年12月4日から6日にホノルルで開催された「第2回日米新世代ネットワーク・ワークショップ」において、青山副会長(慶應義塾大学大学院 教授)のご協力により、アメリカ国立科学財団 (NSF)のTaieb Znati氏、およびGENIプロジェクト・オフィス(GPO)のChip Elliot氏へのインタビューを実施いたしましたので、その結果を掲載いたします。(文中、敬称略)

青山 本日はお忙しいところ、新世代ネットワーク(以下「NWGN」)推進フォーラムのインタビューにご協力頂きまして有り難うございます。
 NWGN推進フォーラムには現在産学官から100名を超す多様なメンバーが参加しており、新世代ネットワークの研究開発を推進することを目的としています。本日は、新世代ネットワークに関連するアメリカの動向に関する情報収集の一環としてインタビューを実施させて頂いております。

まずはじめに、今回ハワイで行われている「第2回日米新世代ネットワーク・ワークショップ」にどのような期待をされていますでしょうか。

Znati ワークショップ初日の開会の挨拶でも述べたとおり、現在我々が直面している様々な課題は国際的に議論し、解決されるべき性質のものだと考えています。この「日米新世代ネットワーク・ワークショップ」は今回で二回目の開催となりますが、前回同様、今回も両国の様々な関係者が直接交流し、ネットワークを構築すること自体に大きな価値があると考えています。ただし欲を言えば、二回目となる今回は、日米両国の専門家の強みを両国参加者で共有し、我々が直面している各種の課題を解決するための具体的な行動計画を立案できればと願っています。既存のインターネットが我々の生活に画期的な影響と貢献をもたらしたということについては恐らく全参加者が同意すると思いますが、我々の生活をインターネットに委ねる上で様々な課題が残っているということについても疑いの余地がありません。したがって、こうしたワークショップを通じて、今後持続的にコラボレーションを推進すべき研究トピックの抽出、共同研究の体制に関する議論が出来ればと思っています。

青山 あなたのお考えや期待に私も同意します。日本の研究コミュニティーも最善を尽くそうと努力していますが、ネットワークの物理的なレイヤーからサービスに至るまで、日本人研究者だけで全ての研究トピックをカバーすることは困難ですので、海外の研究者達とのコラボレーションを推進するということはある種の必然になってきていると思います。

 世界に目を転じてみると、例えば欧州やアジア諸国においても活発な研究開発の動きが観察されますが、外国あるいは海外の地域との国際共同研究の先行事例について何かご存じでしょうか?

Znati 従来「国際共同研究の推進」はNSFという組織の重要な目的のひとつでした。我々はそうした活動を奨励してきましたし、その為のプログラムやメカニズムも提供してきました。後ほどでChip氏からもGENIと欧州側カウンターパートとの共同研究の事例についてはコメントがあるかもしれませんが、共同研究の推進以外にも、学生の為の交換留学プログラム、あるいは海外の学生を米国に招聘するようなプログラムなど、世界との橋渡しをするような事業も沢山実施していますし、そうした共同プログラムを通じて我々も多くのことを学んでいます。そして最も重要な点は、こうした活動に参加している全ての人々が「現在の技術的な制約を克服し、我々が描いているビジョンを実現するようなネットワークを開発する」という目標を共有しているという点ではないでしょうか。もちろん、日本における国際共同研究のファンディングの方法と、NSFにおける方法との間には色々な意味で乖離もあると思いますが、そうしたギャップを埋め、より効果的な国際共同研究の推進方法を検討するということも、今回のワークショップにおける重要な作業課題になると考えています。


青山 ありがとうございました。現在検討されている新世代ネットワークですが、単に既存のネットワークを改善するのではなく、米国流の言い方に倣うと「クリーン・スレイト」なものであるべき、とよく言われています。こうしたアプローチを採用する場合に直面する最も大きな課題は何であるとお考えでしょうか?

Znati まず「クリーン・スレイト」という言葉の意味について個人的な見解を述べたいと思います。「クリーン・スレイトなアプローチで」という場合、これは決して「これまで積み上げてきた全てのものを放棄しよう」ということを意味するものではないと考えていますし、そうあるべきでもないと思います。
 クリーン・スレイトなアプローチとは、通常「ラディカルに思考する」という意味ですが、それを実行する為には、過去の出来事や教訓を冷静に観察・評価する能力が必要となります。そうした能力なしに、ここ数年で提示されたような今後のリサーチの方向性を提示すること、あるいはネットワークの設計思想に関する新しいアイディアに到達することは出来ないと思います。したがって、繰り返しになりますが、「クリーン・スレイト」とは決して過去のものを全て捨て去る、ということと同義ではないと思っています。

 もう一点強調しておきたい点は、いま個人的な定義としてお話しした「クリーン・スレイトな思考法」とは別の、「クリーン・スレイトな普及法(deployment)」という概念です。これは既存の技術を改善する(reinvent)する際、改善された新技術がきちんと普及することを如何に保証するか、という発想です。
 例えばIP Ver.6は技術的に改善されたと言われつつも、何年にもわたり新たなバグが発見され、依然として普及していません。これとは対称的にMPLS(Multi-Protocol Label Switching)――これはATMから借用してきたものですが、ルーティングなど技術的には問題があると言われつつも、有益であり、IPにはない機能を有していたことから、広く使われるようになりました。新しい技術を普及させるにあたっては、我々はMPLSの事例から学ぶべきだと思います。


青山 米国ではGENIとFINDという2つのプロジェクトが走っています。FINDにおいては、プロジェクトの成果をどのような評価しているのでしょうか?あるいはそうした評価を如何にGENIでの実験プロジェクトにつなげているのでしょうか?

Znati NSFにおいてはフェースに応じて異なるプロジェクトの評価方法を採用しています。例えばFINDは3つのフェーズに分かれています。
 第1フェーズにおいては、ラウンティングやレイヤリング、トラフィック制御といった不変的なネットワーク・アーキテクチャーに関するアイディアや設計原則に関する知恵を出し合うことが目的とされています。このフェーズでは多数のプロジェクトが走っていますが、各プロジェクトは小規模の人数により行われ、財政規模も比較的少額です。
 現在実施されている第2フェーズにおいては、第1フェーズで出てきたアイディアを統合する(over-arching)段階です。第1フェーズのプロジェクトの中で第2フェーズにおいても継続すべき案件は、オブザーバー・コミッティーが各プロジェクトの成果や達成度合いを評価したうえで審査します。フェーズ1のコミッティー・メンバーは当該研究分野におけるプロジェクトの新規性の有無、フェーズ2に移るタイミング、研究の進め方がクライアント・ニーズに基づくべきか、実証分析に基づくべきか、といった点についても助言を与えています。
 ただし、現在フェーズ2に移っているということは、必ずしもフェーズ1の全ての研究が終わったということではありません。フェーズ1で研究されてきた要素技術の研究は未だ継続して実施して欲しいですし、それらの研究が更にフェーズ2にフィードバックされていくことを期待しています。以上がNSFのFINDにおける評価方法です。

青山 フェーズ2においては、いくつかの研究がGENIの施設においてテストされるべき性質のものだと思いますが、全てのプロジェクトがGENIにおけるテストが義務づけられているのでしょうか?あるいは実証試験の必要性はプロジェクト・ベースで決められているのでしょうか。

Znati 大変良い質問だと思います。我々は常に応募者に対して「アイディアの言いっ放しは駄目であり、全てのプロジェクトが、経済的な実行可能性(economical viability)、プライバシーが尊重されたメカニズム(privacy reserving mechanism)、社会的価値(societal value)といった、NSFが重視する価値と整合的な研究でなければならない」と伝えています。同時に、応募者には設計思想の正統性を立証すること、および立証するための方法論を予め明示するよう求めています。ネットワークを容易に管理するための「ネットワークの管理可能性(manageability)」に関する研究分野を例に挙げると、「容易に管理できる」というのは研究前の単なる仮説にすぎず、それらを実証する為の説得力のある方法論までセットで提示されなければなりません。それらは応募者の責任で提案書に明記されなければなりません。

青山 ありがとうございました。次は若干細かい質問になりますが、FINDのプロジェクト遂行方法はNetSE(Network Science and Engineering )スキームの下で何らかの変更はなされたのでしょうか?

Znati 当初FINDはネットワーク・アーキテクチャーの設計という非常に特化された分野のプロジェクトでしたが、ご存じのとおり、今はNetSEの一部となっています。しかしながら、FINDとNetSEの目標は互いに矛盾するものではなく、NetSEはFINDを包含する広いスキームとなっています。NetSEは、(ネットワークで流れる)データが社会に与える影響、社会における情報の共有方法など、よりヒューマン・オリエンテッドな指向を目指しています。次世代のアーキテクチャーを設計する際には、人間社会で必要とされている課題を解決する為に有益なネットワーク・アーキテクチャーやデバイスが開発されなければなりませんので、両者の融合は必然的なものだと考えています。

青山 NSFはFINDやGENIの研究成果を如何にして産業界に移転していくのでしょうか。

Znati FINDのオブザーバーが成果を見極めたうえで、産業界における活用方法に関する助言も与えています。したがって、オブザーバーがFINDに可能な限り深く関与し、FINDにおけるプロジェクトやそれらの成果を理解できるようなにすることが大前提となります。
 また、フェーズ2のプロジェクト審査の局面においては、極力産業界もプロジェクトに関与できるよう、審査員に対して要請も行いました。産業界も10年、15年後のネットワークの姿について考え始めるタイミングに来ていると認識し始めていると思います。もちろん、産業界に対してどの程度政府が財政支援をすべきかという議論もありますが、産業界に対して閉鎖的になりすぎることも問題です。したがって、今では産業界からの提案に対しても極力オープンな姿勢で臨んでいます。

青山 日本においても公的資金を使った産業界への研究助成がなされていますが、その際に問題になるのは、(税金を使って実施された研究の成果に対する)知的財産権の扱いです。米国ではどのようなルールになっていますでしょうか?

Znati NSFは非常にシンプルなルールを適用しています。NSFの助成により行われた全ての研究成果は全て一般に対して開放されなければならない、というものです。納税者の税金により実施された研究の成果は社会全体に還元されなければならない、という考えに基づいています。


青山 ありがとうございました。続いて、Elliot氏に質問をしたいと思います。GENIではSpiral 2のプロジェクトが始まったと聞いていますが、Spiral 2のプロジェクトは如何にして選定されたのでしょうか。

Znati まず、このようなインタビューにお招き頂きましたことを感謝したいと思います。GENIプロジェクトはSpiral方式と呼ばれる方法により発展してきました。これまでは1年間かけて実施されたSpiral 1はプロトタイプでしたが、そこで得た経験や教訓を活かしつつSpiral 2の準備を進めてきました。
 ただ、現在でもSpiral2の為にGENIを本格的に使い始めるのは若干時期尚早と言えるかもしれません。例えば、Spiral1で明らかになった課題としては、GENIのセキュリティーが未だ十分確保されていないこと、関与している人材は優秀であるものの層が限定的であること、設備や計測機器が不十分であることなどが挙げられます。我々は募集要項(solicitation)において、GENIで更なる改善と貢献が必要とされているこうした分野を常に明記するようにしています。クラウド・コンピューティングに関する人材の関与も不可欠です。
 これまで約100の提案書を受け取っていますが、それらはアカデミアや産業界からなるピア・レビュー・パネルを設置し、評価をしてもらいました。

青山 日本では例えばJGNというテストベッド環境があり、そのうえでいくつものプロジェクトが走っています。NICTにより助成されているプロジェクトのほかに、大学が(助成なしで)独自にJGNを活用しているような例も多数あります。GENIおいても同様の状況なのでしょうか?研究者が自分の研究の為にGENIを活用することは可能なのでしょうか?

Znati それは可能です。GENIは多様な目的の為に使われることが目指されていますが、現在は4つの実験がGENIで行われようとしています。1つ目はNASAの為に行われているDTN(disruption-tolerant networking)システムの実験、2つ目はFuture Internet Architecture、3つ目はSocial Networking and Facebookに関するもの、アドホック・ワイヤレス・ネットワークの実験です。Spiral2が進むにつれてもっと多様な研究分野の為に使われることを望んでいます。

青山 例えばJGN2とGENIが接続された場合、日本の研究者が共同研究の一環としてGENIを使うことは可能なのでしょうか?

Elliot 両国の研究者が参加するのであれば、それは可能だと思いますし、我々もそうなることを望んでいます。

青山 FINDとGENIの間ではどのような協調体制が取られているのでしょうか?

Elliot FINDとGENIとの間のコラボレーションを行う環境は改善されつつあります。一年前にはGENIは存在していませんでしたので、これまではコラボレーションを実施しようとしても時期尚早でした。これからはFINDプロジェクトの参加者に対してGENIを使うよう奨励していきたいと思います。もちろん、研究者には研究方法の自由に関する権利が与えられていますので、我々がFINDプロジェクトにGENIの利用を強制することは出来ませんが、可能な限りの奨励はするつもりです。

青山 GENIのテストベッドを構築するにあたり最も重要な技術は何でしたか?

Elliot 我々は極力「大規模なインフラ」を構築するということをが心がけました。そのためにも、如何にして市販設備をGENIで活用できるようにするか、如何にして信頼性の高い設備メーカーに対して若干の改良で市販設備をGENIで活用可能な形にしてもらうか、ということを真剣に考えました。これが我々が当初重視した戦略です。
 我々が近い将来重要になると考えている技術はオープン・フローとWimaxです。両者ともGENIと互換性を持っていますし、二つとも民間企業により提供されているからです。

青山 かつてのARPANETがインターネットに進化し、ビジネス面でも成功したようなかたちで今後GENIが成長することを期待していますか?

Elliot いろいろと夢は膨らみますが(笑)、インターネット的なものを発明することは容易ではなく、それこそノーベル賞ものだと思います。ですので、今は良質な研究用のインフラを構築することに専念しています。

青山 日本と比較して米国のインターネット業界では多くのベンチャー企業が成功していますが、NSFはベンチャー企業を支援しているのでしょうか?

Elliot 日本では大企業が素晴らしい研究所を保有しています。これは米国の誰もが羨んでいるものです(笑)。
 質問にお答えしますと、GENIには産学の双方がバランス良く参加して欲しいと思いますが、産業界といっても大企業から起業したての中小企業まで多様な企業が存在します。我々は中小企業に対する奨励の一環として、中小企業がGENIを使って発明した知的財産権は放棄しなくても良いという方針を取っています。

青山 先ほどのZnati氏のお話しでは、公的資金により実施された研究の成果は原則として全て公開されるという話しもありましたが?

Elliot 私も法律については詳しくありませんが、我々のポリシーは問題ないと考えております。

青山 これまで日本では公的資金で実施された研究開発から派生した発明に知的財産権は与えられていませんでしたが、これは産業界からは不評でした。彼らは当然、そうした研究成果をビジネスにおいて活用したいわけですから。

Elliot 私は弁護士ではありませんが、GENIにおいては2種類のライセンシング・ルールがあり、GENIへの参加者はどちらかにサインをする必要があります。第1のルールは全ての知的財産権を放棄するというものです。第2のルールは「知的財産権の放棄はしないが、GENI参加者に対しては無償で利用させることを許可する」という若干制限的なものです。ふたつのうちから参加者に選ばせるという手法も実験的に導入されたものですので、今後どうなるか、もう少し見極める必要があると思います。

青山 NICTの宮原教授はNICTの助成研究に関する知的財産権政策に大きな関心を持っています。

Elliot 米国では多くの大学の先生が会社を設立したいと考えていますから、参加者に選択肢を与えるという方法が望ましいであろうとGENI Project Officeが判断した経緯があります。

青山 NICTは次世代のテストベッドとして新しいJGNを開発しようとしていますが、日本に対する期待はありますか?

Elliot 日本との共同研究には大きな関心を持っています。日本は光、無線、センサー、デバイスといった分野で競争力を持っていますので、こうした分野における共同研究を実施できればと思います。

青山 日本では新政権が財政の健全化を目指しており、テレビでは毎日事業仕分けの様子が中継されています。研究開発予算も大規模な削減が行われようとしており、とりわけ大学研究者などは長期研究開発予算の削減に憂慮しています。
 現在、わたしは電子情報通信学会の会長にも就任しており、最近長期的な研究開発予算の必要性を謳った声明文も発表しました。ただし、場合によってはNICTの予算も削減される可能性もあり、NGNやJGNに関する予算も削減されるかもしれません。米国におけるオバマ政権の状況は如何でしょうか?

Znati オバマ政権は研究開発投資が景気回復や雇用創出に貢献し得ることを認識しています。実際に現政権は深刻な不況から脱出するための景気対策として研究開発に投資していますし、NSFに対する予算も30億ドル増額しました。研究開発に投資しないというのは大変な過ちです。研究開発は連続的に行われなければなりませんし、短期的な利益を追求する産業界にとってはリスクが高すぎて実施できないような基礎研究も沢山存在します。NSFの役割は、まさにそうした研究分野におけるリスクを取ることです。もちろん研究開発投資の全てが報われるとは限りませんが、成功すれば社会全体に便益が還元されることになります。同時に、教育に対する投資も重要であることは言うまでもありません。

青山 ということは、NSFの予算が削減される心配はされていないということですか?

Znati もちろん予算の問題は常に心配していますし、もっと予算があればという希望はあります(笑)。ただし、少なくとも昨年度は増額になりました。

Elliot ここ数年、私はGENI関連の仕事で世界中を巡っていますが、各国政府や国連のインターネット・ガバナンスの重要性に対する関心はここ数年急激に高まっているように思えます。これは医療、食糧、金融システムと同様に、インターネットが我々の生活や社会にとって不可欠なものになった一方で、インターネットのガバナンスに多くの問題が残存していることに多くの政府が気付いたからだと思います。

青山 しかしながら、日本の一部の政治家は情報通信技術は十分発展しているから、むしろ予算はより重要な用途に使われるべきだと考えています。

Elliot 研究開発予算を狙う国内のステークホルダーではなく、海外の専門家から中立的な意見を述べてもらってはどうでしょうか?彼らの意見に耳を傾ければ、我々の生活にとってインターネット関連の研究開発が如何に重要か、みな口を揃えて同じことを言うと思いますよ。

青山 最近韓国を訪問し、ソウル国立大学の教授達と話しをした際、彼らも韓国における同様の傾向に問題意識を持っていました。「エネルギーや環境の方が大切でしょう」、という風潮が政府内にあると。
 我々は政府や政治家に対してより良い説明をする必要に迫られていると痛感しています。

Elliot もちろん政府の予算は有限ですので政策のプライオリティ付けは不可欠ですが、エネルギー問題と同程度にインターネットの問題は重要だと思いますよ。

Znati 諸外国の研究者が次世代のネットワークの構築に向けて研究開発を行っているなか日本が研究開発を打ち切れば、その分野で遅れを取ることは避けられません。もし私が日本人で、そんな状況に陥ったら日本政府や政治家の責任を追及すると思いますよ。

青山 ご助言を頂きましてありがとうございます。
 最後の質問に移りたいのですが、日本では若者の科学技術離れが進んでいます。さらに、科学技術の中でも情報通信の分野の人気は低下しており、優秀な学生は別の分野を専攻する傾向が強くなってきています。米国の状況は如何でしょうか?

Znati まさに米国でも同じ状況が起こっています。私は学生を責めるつもりはありません。むしろ長いあいだ情報通信分野の基礎をきっちりと教えてこなかった我々教育者の責任だと思います。
 例えばコンピュータ・サイエンスの分野を例に取ると、我々はスプレッドシートの操作方法、初歩的なJAVA言語といった「コンピュータ・サイエンス・リテラシー」の教育に偏って力をいれてきましたが、そこでは学問としての基礎が疎かにされたのです。本来のコンピュータ・サイエンスとは、まさに「コンピューティング」を理解することであり、システムを抽象化する方法を理解し、問題解決に活用するということです。コンピュータ・グラフィックの授業を履修すれば学生は喜びますが、そうした感動は長くは続かず、一年たてば冷めてしまうものです。
 もう一つの原因は、ICT分野では多くの職があるため、企業が必ずしも専門性を持たない学生も採用しているということと関連しています。例えばMicrosoftなどは「人工言語は入社後に一から教えるので心配せずに我々に任せて下さい。大学の先生は勉強の仕方やコミュニケーションの方法を学生に教えておいてくれれば十分です。」というスタンスです。こうした風潮は見直されるべきです。我々は、自分たちが80年代、90年代に我々がコンピュータ・サイエンスを勉強していて味わった感動を今の学生にも伝える責務を負っていると思います。


青山 日米ともに同じ問題を抱えているということですね。何か我々に対する質問はありますか?

Znati どうすれば日米の研究者の共同研究が促進されると思いますか?

青山 私自身も、私の学生も、米国の研究者と共同研究を実施したいと強く思っていますし、既にイリノイ大学やカルフォルニア大学サン・ディエゴ校との間でテストベッドを活用した共同研究も実施しています。ただ、そうした希望を持つ研究者は予算を必要としています。予算が確保され、両国の研究者がそれを活用するプロセスが整備されれば共同研究は自ずと進むのではないかと思います。

Elliot 私からも質問させて下さい。「近い将来のキー・テクノロジーとしてオープン・フローとWimaxが挙げられると思う」と先ほど私の意見を申しましたが、青山先生はどのようにお考えですか?

青山 そうですね。例えばAKARIプロジェクトにおいて我々は重要な技術の抽出を行いましたが、そこではIDとロケーターの分離、ネットワークの仮想化、固定網と無線の融合、セキュリティーといった分野が挙げられました。他方、研究者の層が薄いという意味でセキュリティー分野は日本における弱点でもあります。固定網と無線の間の共同研究が促進されていないという点も課題です。日本は光技術や無線分野では競争力を持っていますが、両者の共同研究が進んでいないのです。

Elliot 日本から米国のGENIやFINDを見たときに、一番の魅力要因は何でしょうか?どのような分野で共同研究をしたいと思いますか?

青山 ネットワークの仮想化の分野でPlanetLabがスタートした当時、日本の研究者はこの分野にさほど関心を示しませんでした。したがって私個人としては、ネットワークの物理層ではなく、Upper LayerやMiddle Layerにおける共同研究に関心を持っています。
 米国のプリンストン大学にいた中尾先生が日本に戻って東京大学でネットワーク仮想化のプロジェクトを立ち上げましたので、彼が米国との共同研究の推進力となるかもしれません。

Elliot 日本との共同研究を促進するため、あるいは一般論として、GENIプロジェクトを改善する為の良いアイディアはありますか?

青山 ARPANETと同様、新しいネットワークやアプリケーションに関する研究を行っている多くの研究者にGENIを利用してもらうことが大切だと思います。つまり、Openness(公開性)が重要になると思います。GENIの立ち上げ当初には選抜も必要だと思いますが、次第にオープンにしていくことが重要ではないでしょうか。

Znati 日本のテストベッド・インフラでも同様にOpennessが追求されているのでしょうか?

青山 研究計画を提出すれば誰でも無料で利用することが出来ます。

Znati 米国の研究者も使うことが出来るのでしょうか?

青山 日本へのアクセス・ラインさえ準備すれば、米国の研究者に対しても無料で開放されると思います。

Znati 日本のテストベッドは誰が所有・運用しているのでしょうか?政府でしょうか?産業界でしょうか?

青山 産業界は関与していません。例えばSINETは文部科学省が所有していますので、商業利用でなく研究開発目的であれば無償で利用できます。事実、既に多くの米国人研究者がJGNを使って日本のカウンターパートにアクセスしていますよ。

本日は長い間インタビューにおつきあいして頂き有り難うございました。今後も継続的に協力してききましょう。

Znati こちらこそ、ありがとうございました。

Elliot ありがとうございました。

コメントする