【取材】新世代ネットワークの方向性|須藤 修氏(東京大学)

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新世代ネットワーク推進フォーラム 庶務

現状のインターネットの課題、新世代ネットワーク(NWGN)により期待される社会経済的なインパクト、新世代ネットワークの実現に向けた産学官の連携のあり方などにつき、アセスメントWG主査の須藤修先生(東京大学大学院情報学環 教授)にお話しをお伺いしましたので、その結果を掲載いたします。(文中、敬称略)

―まず、新世代ネットワークの実現に向けて、インターネットにはどのような問題があるとお考えでしょうか?

須藤 現在のインターネットは多くの問題を抱えていますが、やはりセキュリティに関わる問題によってネットワークが信頼を獲得できていないことが、もっとも重大な問題ではないでしょうか。


―セキュリティの問題が解決されたときには、どのような効果が考えられますか?

須藤 現在、医療や金融で扱われるきわめて機密性の高い情報のやりとりでは、セキュリティ面への不安が原因でインターネットは使われていません。もしセキュリティの問題が解決されれば、こうした社会・経済的な活動に対するネットワークの貢献は大きく高まるでしょう。


―セキュリティに関する技術開発について、注目しておられる事例はありますか?

須藤 ネットワーク仮想化の技術に注目しています。この技術はセキュリティを確保するうえできわめて重要です。日本では東京大学の中尾先生の研究が代表的です。


―わが国で新たなITサービスを創出するために、必要となる法制度面の改革はありますか?

須藤 今後はITサービスの重要性がさらに高まります。このとき、データのマイニング、名寄せ、マージ、エディティングが重要になりますが、現在は、著作権や個人情報保護の問題が強調され、こうした迅速なサービスを行うことはできません。世界に通用するITサービスを創出するために、こうした諸課題をよく議論して抜本的に見直し、知的財産権や個人情報保護とITの可能性を両立させるサービスのビジネスモデルを構想すべき時期にきていると思います。特に、著作権や個人情報保護について、テクノロジーを前提とした議論がなされる必要があります。テクノロジーの前提のない一般論では従来の議論から前進することは難しいでしょう。


―今後、日本がイニシアティブをとれる(とるべき)技術について、どのようにお考えですか?

須藤 日本には優れた研究をしている人は大勢いますが、だからといって世界でイニシアティブをとれるわけではありません。この分野ではIBM、Microsoft、Googleといった企業が巨大資本を投下してビジネスモデルを構築してきました。日本の企業の投資能力を超えた規模で動いていることを認識する必要があります。このような状況ですから、日本がイニシアティブをとるというよりは国際的なコンソーシアムの中で存在感を示していくことが重要です。そのために、まずは国内で、このフォーラムのように産学官連携でまとまって活動する枠組みが必要となります。国際的なコンソーシアムに個人個人で参加しても日本の存在感を示すことはできません。


―先生はアセスメントWGの主査を務めていらっしゃいますが、現在のフォーラムのかかえる問題点や課題について、どのようにお考えですか?

須藤 フォーラムの課題は、まだ具体的な目標が明確になっていないことです。もっと具体的な検討や研究開発を進めたいと考えている人も多いと思いますが、そのための活動資金を獲得するためにも、明確な目標が必要です。
 目標を明確にするうえで、基軸となるのはやはり研究開発です。研究開発の目標を可視化して対外的にアピールしていくことによって、いろいろな意味でフォーラム全体の動きがとりやすくなると思います。そのうえで、ワーキンググループ間で定期的に情報交換、意見交換をするとよいと思います。


―ワーキンググループ間の連携については、どのようにお考えですか?

須藤 ワーキンググループ間の連携は重視しています。2009年11月に研究開発戦略WGとアセスメントWGとの合同シンポジウムを開催し、2010年1月には研究開発戦略WGの協力を得てアセスメントWGのメンバーが新世代ネットワークに関わる技術動向を共有する場を設けることができました。こうした場を定期的に設けていく必要があります。
 今後はテストベッドの重要性が高まりますので、テストベッドネットワーク推進WGとアセスメントWGとの意見交換の場も設けていきたいと考えています。アセスメントWGの会合でも話題になっていますが、新世代ネットワークに対する技術的要件について定性的な情報は得られていますが、定量的な情報を得ようとするとテストベッドと連携して検証をしていくということが大切になります。また、テストベッドで検証を行う過程で法制度的な課題が生じ、これをアセスメントWGが検討するということも考えられます。
 ただし、各ワーキンググループに、ある程度の自由度や冗長性を保証する配慮が必要です。ワーキンググループ間での協力関係を高めることは重要ですが、報告のための資料づくりに追われてプロジェクト本体がダメになるリスクを高めるという事態は避けられなければなりません。研究は、蛇行しながら進みますし、ひとりで抱え込んで考える時間も必要です。


―新世代ネットワークの浸透をめざして、どのような層への認知を図る必要がありますか?

須藤 新世代ネットワークは少なくとも情報通信の専門家には認知されていなければいけないと思います。ところが今は情報通信の専門家に話をしてもNGN(次世代ネットワーク)を想定した話になってしまい、「NGNの次です」と説明するような状況です。ただし、情報通信の専門家にとっては、技術的にどのくらいの成果があがっているかが重要であり、それなしに関心をもってもらうことは難しいという面があります。
 また、一般の人達にも関心をもってもらってもいいと思います。極端ですが「今のインターネットが終わります」と言えば、みんな「えっ?」と驚きながらも、現在のネットワークの問題点や課題を意識するきっかけになると思います。


―ありがとうございました。これで取材は終わりです。

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