【取材】新世代ネットワークの方向性|齊藤 忠夫氏(東京大学)

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新世代ネットワーク推進フォーラム庶務

現在のネットワークに関する課題、新世代ネットワーク(NWGN)への期待、産学官連携のあり方、本フォーラムの活性化方策などにつき、本フォーラムの会長で、東京大学名誉教授の齊藤忠夫先生に取材を行いましたので、その結果を掲載いたします。(文中、敬称略)

―現在のネットワークに関して、どのような問題点や課題を感じていらっしゃいますか?

齊藤 過去のすべてのネットワークは、「人間が人間に情報を伝えるもの」としてしか考えられてきませんでした。その普及が全人口に及ばなかった時代には「人間」を市場とした技術での成長がありました。
 今や、通信もコンピュータも、地球上の全人口に普及するようになりました。特にコンピュータについては、2000年までは10年ごとに10倍のペースで普及台数が増加し、性能も10年で10倍のペースで向上するなど、エレクトロニクスの需要を築いてきました。
 2030年以降に目を転じると、現在の高性能コンピュータの100倍の性能の端末を、人口の100倍の台数、利用できるようなネットワークが求められています。こうした将来のネットワーク環境では、機械が通信の主体を担うようになると考えられます。しかし、現時点では、インターネットを含め、機械間の通信の需要を実現するネットワークは存在していません。


―既存のネットワークの課題が克服された場合に、期待される社会経済的な効果やビジネスチャンスについてのお考えをお聞かせください

齊藤 まず、ネットワークは、大きなビジョンのもとで汎用性を持って世界規模で形成されるものである、ということを念頭におくべきです。そして、すべての問題解決のための共通の基盤となるものでなければならないと思います。
 ネットワーク研究が社会の役に立つ研究であることは当然のことです。実際、世の中には多くの社会的な困難が存在しています。
 一方で、ネットワークの当面の効果ばかりにとらわれることには大いに問題があります。それぞれの研究で、個別の社会問題の解決に役に立つことを主張していると、その目的を満足すれば良しということになってしまいます。狭い目的で役に立ったシステムは、それ以上に発展しなければほどなく消滅してしまうでしょう。つまり、将来のネットワークの基礎となる「汎用性」の実現の阻害要因になりかねないのです。こうした留意点を踏まえ、広い視野で将来のネットワークの研究を進めてほしいと思います。

 なお、機械間通信については、個人の安全安心の向上、経済性を考慮した医療の高度化、自動車の実質的無事故化などを実現する鍵になると考えられます。


―ネットワークの課題克服に関して、国内外の研究開発動向はいかがでしょうか?

齊藤 機械間通信に関していうと、世界で行われている研究のなかで、先ほどご説明したビジョンに沿うものは少ないのが現状です。
一部を実現するアイデアとして、CCN(content centric network)の研究は進んでいます。これは、相手のアドレスを知らなくても、知りたいコンテンツを指定するだけでその情報源につながるネットワークです。ただし、これは人を利用者としている点では「近未来的」といえます。
 国内外におけるNWGNの研究開発の全体的な傾向としては、いずれも「Security」、「Manageability」、「Real time性」を配慮し、「新しいネットワーク機能・サービス・アーキテクチャ」、「社会のニーズ・有用性」を主張したものとなっています。
 多くの研究は個別的で、多様な機能を統合し体系化したものにはなっておらず、新世代ネットワークの姿は見えていないのが現状です。


―新世代ネットワークの実現に向け、望まれる産学官連携の姿や前提となる制度改革につきまして、ご意見をいただければと思います。

齊藤 現在の政府の研究開発は「何に役に立つか」を問いすぎています。ネットワークの研究でそれをやれば、中途半端で多様なネットワークが乱立し、しかもどれも役に立たない、という結果に陥ります。これは過去においても起き、現在も進行しています。
 当面の効果を求めることがネットワークの研究開発では無意味である、ということを理解することが、日本で競争力を持つネットワークを作る基礎になるでしょう。


―日本が競争力を有し、イニシアティブを取れる技術についてはいかがでしょうか?

齊藤 私が冒頭に述べたビジョンは世界にも珍しいものであり、日本の今までの実績から競争力は十分にあると考えます。
 ただし、ネットワークは、オープンに多様なアイデアを世界から集めて発展するものであることを念頭におくべきです。
 技術をまず日本で展開し、しかる後に世界に展開してイニシアチブをとる・・・、というシナリオを描いても失敗する、ということは、今では広く常識になっています。考える範囲が保守化してネットワーク研究の発展を阻害しないよう、注意が必要です。
 また、ネットワーク研究では、初期には「需要はない」と言われやすい傾向があります。この時期をいかに克服してゆくかが重要です。
 過去には、常識的にみると需要がないと考え、開拓しなかったところが敗者となっています。常識の壁を超えて、将来の需要の有無や、具体的に何が求められるのかを検討する必要があります。


―フォーラム活動に期待される役割と課題についてはいかがでしょうか?

齊藤 現在世界で行われている新世代ネットワークの研究の多くは、既存のネットワークの性能を従来の延長上に拡大しようとするものです。延長線上のこだわりを一度捨てて議論することが望ましいと考えます。


―質問は以上です。ありがとうございました。

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