【取材】新世代ネットワークの方向性|後藤 厚宏氏(NTT情報流通プラットフォーム研究所)

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新世代ネットワーク推進フォーラム庶務

現在のインターネットに関する課題、将来のネットワークに対する期待などにつき、クラウド・コンピューティング等の研究をされている、NTT情報流通プラットフォーム研究所の後藤厚宏所長(紹介HP)にお話を伺いましたので、その結果を掲載いたします。(文中、敬称略)

―情報通信技術を研究されているお立場から、現在のインターネットにはどのような課題・問題があるとお考えでしょうか?

後藤 第一に、インターネットの問題点として「セキュリティ」という回答がなされる場合が多いように思えますが、私はこれがインターネット固有の問題とは考えていません。どのような技術であっても――例えば鉄道や電話が良い例ですが、世の中に普及し、生活の一部になっていく過程で安全性やセキュリティ面の観点から課題が生じますし、全てが解決されるような夢のようなモノなどはないと思います。重要なことは、社会・企業として継続的にこうした課題に対応していくということではないでしょうか?
 セキュリティを論ずる際に「人々に悪意がなければ・・」という仮定で議論がなされる場合もありますが、こうした仮定自体が前提として意味をなさない場合もあると思います。もちろん、自他共に悪意を認めるようなケースもありますが、他人から見ると悪意があるように思えても、当の本人には全く悪意がないといったグレーなケースもあるからです。

 第二に、インターネットの技術的な課題については様々な議論がなされていますが、これとは別の問題として、例えばドメイン名の管理・割当方法に代表されるように、議論の方向性が各国の国益・思惑に振り回されているようなケースがあるようにも思います。GDPのように国の経済規模に基づいてドメインを割り当てるべきという意見もあれば、各国平等に割り当てるべきという意見もあります。「公平とは何か」を巡り様々な主張が衝突していますが、ユーザの利益という観点から離れて議論が思惑に左右されることは望ましくないと思います。

 最後に、私の専門領域のひとつであるクラウドの研究という観点から申し上げますと、ブームだからという理由で研究を進めるのは危険だと思っています。ブームが去り、ビジネスにならなくなった時に「企業の都合でサービスを止めます」と言ったのではユーザが困ってしまいます。社会基盤となりうるものについては、そのインフラが維持され、きちんと運用されるための仕組み、それから安心感が不可欠ですし、そのためには他の多くの企業が研究開発投資を行うということもひとつの前提となってくると思います。


―ありがとうございます。次に、新世代のネットワークの実現に伴い、どのようなビジネス・チャンスが創出されるとお考えでしょうか?

後藤 これはあくまで個人的な見方ですが、現在のインターネットは電話網という基幹ネットワークの上で提供されるという前提で成り立っているサービスです。ネットワークの研究開発投資という観点からは、弊社はNGNを推奨していますが、今後はインフラ網自体が変化していくことになりますので、当然それを前提としてサービスも再構築していく必要があると思います。インフラ網の進化の過程では、仮想網、トラフィックのハンドリング方法など、様々な技術が切磋琢磨していく必要があると思います。

 そういえば、欧州委員会のFP7に参加している方と話す機会があったのですが、「今後はネットワークのコンポーネントのソフトウェア化が進み、そこでの競争が生まれるので、早い段階で技術標準やルールを決め、皆にそれを従わせるという世界は成立しなくなるのでは」という話しになりました。つまり、ある程度の競争やイノベーションを経たうえで、ITU等で標準化や決め事を行うという順序になるのではないでしょうか。もちろん、特定技術を一社に頼ってしまうことについて、世界全体としてリスクをヘッジしておくことは必要ですので、要所要所で政府や企業が必要な対応をとる局面もあるかと思いますが、新しいネットワークに関する標準化がすぐに必要とは限らないと思います。


―クラウドや仮想化といった分野における国内外の研究動向についてご紹介いただけますか?

後藤 一時期「ユビキタス」という言葉が流行りましたが、その言葉のとおり、ユーザが物理的な制約から開放されることが一番重要だと思いますし、新世代ネットワークやクラウドもそうした観点から位置づけられるのではないでしょうか。
 これまでは、コンピュータの計算資源の性能・容量で実行可能な作業の内容が制限されていました。クラウドが実現すれば、その制約が外れていくことになります。「携帯電話用電話帳預かりサービス」も端末の制約から開放されている一例です。
 今後は端末のみならず、ネットワークの仮想化という方面で技術の開発が進んでいくと思います。また端末の仮想化にあたっては、ネットワーク側との協力体制も必要となります。遅延の問題をはじめ、パケット処理の運用方法などは両者の協調が不可欠だからです。こうした技術が進展すれば、ネットワーク事業者にとっても、ユーザにとってもハッピーな状況が構築されると思います。
 ただし、いま現在何が一番制約になっているかは人によって異なっています。自分は地下鉄通勤をしていますので、無線インフラが物理的な制約になっています(笑)。


―お話しいただいたような新たな技術の開発を促進していく過程において、政府はどのような役割を果たすべきだとお考えですか?

後藤 リスクが大きく、長期間かけて行うような基礎研究はどうしても必要となります。政府の助成研究の研究期間が近年総じて短縮傾向にありますが、実用化可能な研究から基礎研究まで、内容に応じた期間の柔軟性が必要だと思います。また全ての研究において産学官連携が最適というわけでもなく、産学連携、学官連携、産官連携とケース・バイ・ケースで組み合わせていくことも重要だと思います。


―新世代ネットワークに関連しうる技術のうち、日本はどのような分野に積極的に関与すべきだとお考えですか?

後藤 先ほどの助成研究の話しとも関連しますが、とにかく日本は大型のプロジェクトに積極的に関与すべきだと思います。最近は世界的にも大規模な研究プロジェクトが少なくなってきています。ということは、大規模プロジェクトの中で生まれる副産物的な技術も少なくなってきているということです。
 アポロ計画の直接の目的はスペースシャトルで人間を月に送ることでしたが、命を左右しうる技術を開発する過程で、信頼性設計技術、莫大な量のソフトウェアを自動的に検証する技術、あるいはソフトウェア技術者の人材育成方法まで生まれました。しかし今では世界的に見てもこのような大規模プロジェクトはほとんど無く、そのことについては危機感を感じています。日本でも大型コンピュータを作る・作らないで色々と議論がなされていますし、宇宙ステーションも米国一国ではなく、国際共同で開発されていますよね。


―質問は以上です。ありがとうございました。

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