【取材】新世代ネットワークの方向性(リアリティメディア)|田村 秀行氏(立命館大学)

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新世代ネットワーク推進フォーラム庶務

現在のインターネットの課題、新世代ネットワーク(NWGN)への期待、ネットワークを活用したビジネスの考え方、わが国の政策的課題などにつき、リアリティメディア(仮想と現実を融合する「複合現実感」や触力覚を活かした「タンジブルインタフェース」など)の研究に従事されておられる田村秀行先生(立命館大学 情報理工学部 メディア情報学科 教授)(紹介HP)に取材を行いましたので、その結果を掲載いたします。(本文、敬称略)

―現状のインターネットを利用する際にどのような問題点や不安をお感じですか?

田村 画像・映像関連技術の研究開発に携わってきた者としては、高精細な画像を平気で電子メールに添付したり、ネットからごく普通に映像データをダウンロードしている現状をみると、今昔の感があります。かつて個々に専用の入出力機器や保存記憶媒体を用意していたのに、ディジタル形態をとることにより、画像・映像データが他のデータと区別なくPCで扱え、ネット上を流れるようになったためだと思います。
 その半面、この10数年の間に、一気にIP接続、ベストエフォート型のサービスに情報インフラの大半を頼るようになったことに危険性を感じています。誰でも接続でき、誰が管理しているかが明確でなく、誰も制御できない無政府状態のネットワークに、これほど多くのものを委ねてしまって良いのでしょうか? サイバーテロや個人情報流出などに対する安全性・信頼性問題とは別に、データ量の爆発的な増加と渋滞に不安を覚えます。
 TV・映画・ゲームソフトなどの高画質化が進むなか、HDレベルの映像がネット上を大量に流れ出すことは確実です。これまで、PCの高速化・低価格化、その記憶媒体の大容量化、通信回線の高速化等の微妙なバランスの上で進展してきた画像・映像データ利用の大衆化は、映像の高精細化、利用頻度の増加で、ネット上の大渋滞を引き起こすのではないでしょうか。その場合には、緊急性の高い、わずかなデータの授受も麻痺することでしょう。(無責任で安直なサービスを提供する)YouTubeなどの利用数の増加を見るにつけ、その不安が増します。
 この問題は、一見、大都市圏の通勤地獄、交通渋滞と酷似しているように見えます。誰もが個々の利便性を求めた結果が、社会インフラ上の大問題を引き起こしている訳です。インターネットの場合、一地域、一国でのコントロールが困難なだけに、問題解決はより難しいと考えられます。
 何でもかんでもインターネットに頼る風潮を改めるには、業務用、特殊用途での利用に適したネットワーク・サービスが、適正な価格で提供される必要があると思います。


―既存のインターネットの課題を克服するような新たなネットワークが実現した場合に最も期待される社会経済的な効果またはビジネスチャンスは如何なるものですか?

田村 ビジネスチャンスは、いくつもの偶然とビジネスセンス(山師的感覚?)に秀でた人物によって拓かれることが多いので、その質問に大真面目に答えるべきですかね(笑)。
 強いていうなら、そのヒントは16〜18年前のマルチメディア・フィーバーの頃に語られた未来予測図のなかにいくつも見つかると思います。その頃に多数作られたプロモーション・ビデオや、良質のSF映画の中には、誰もが「あればいいな。手に入るなら、使いたいな。」と感じている物やサービスが描かれているはずです。
 今後、もっと画像・映像利用が増え、個人利用の体験型コンテンツが増えてくることだけは間違いないでしょう。そのための情報メディア技術の発展は確実ですが、それをどのようにビジネスチャンスに結び付けるかは、別の問題だと思います。


―将来のネットワークの開発と普及の実現に向け、産学官連携のあり方や前提となる制度改革につきまして、ご意見をいただければと思います。

田村 (省庁間の縄張りもあるのでしょうが)この問題を、「ネットワーク」にだけ限定して考えていること自体が不適切だと思います。もはや、「ネットワークの開発と普及」は、AV機器、携帯型情報機器の発展と切り離して考えることはできないのですから。
 そうした半面、PCの低価格化、コモディティ化が進んだことにより、情報技術の革新が停滞している感があります。極論すれば、1995年頃より、コンピュータやネットワークの利用形態に大きな変化がなく、単に高速化・高精細化・大容量化・大衆化が少し進んだだけのように見えます。
 若い研究者から見れば、挑戦したい課題が(身近に)見当たらないのじゃないでしょうか。大学や国立研究所の相対的地位は低下し、民間企業から見れば公的資金による研究成果に魅力がありません。同様に、大手企業の研究所の地位も低下し、基礎研究・先端研究の比率も年々減少しています。情報技術分野に関しては、R&Dギャップを埋める健全な研究開発体制が崩壊し、いきなり大量消費の民生品での利用が優先されているように見受けられます。
 その一因として、半導体や液晶パネル等の生産ラインに多額の投資を要するゆえに、大量生産の標準品にしか供給されないこと、PCが低価格ゆえに、入出力機器もソフトウェアもそれに見合う価格帯のものしか市場投入されず、斬新な新技術が試しにくいことが挙げられます。要するに、未来の利用形態を探るうえで必要な上流技術のタネを創出し、試験投入する場が失われていると感じます。
 かつて、情報関連の先端技術は、ARPA(*1)やNASAの研究支援、わが国の大型プロジェクトが大きな役割を果たし、未踏技術への挑戦を行い、副産物も多々生まれてきました。わが国では、公的研究開発費は増加しているものの、集中投資はなされず、薄く広くのバラマキ型に転じている印象が強いです。貨幣価値を考えれば、現在の1桁か2桁上の大型プロジェクトが必要であると感じています。
 現在及び近未来の情報関連技術(ネットワークを含む)に関しては、「多額の研究予算を使って、壮大なことを考え、世の中に影響を与える」という発想がないように思います。少なくとも、そういう着想と気概をもった中堅・若手研究者を育成していないことは間違いないでしょう。

―質問は以上です。ありがとうございました。


*1 ARPA:Advanced Research Projects Agency(国防総省高等研究計画局)

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